さまざまなインプラント 費用
「不老長寿」ということばがあるように、健康で長生き、それは誰もが願うことです。
そして現在、わが国が世界一の長寿国であることは、読者の皆さんもよくご存知でしょう。
二○○一年度の厚生労働省調査によれば、男性七八・○七歳、女性八四・九三歳という数値が日本人の平均寿命となっています。
しかしその実態をみると、やや疑問を感じざるをえません。
「世界一の長寿国」といわれるけれど、必ずしも「不老」ではなく、医療機関や自宅などで寝たきりになっているお年寄りが、大勢いらっしゃるからです。
やはり、思うまま暮らしを満喫できるような生き方をしてこそ、私たちは充実した人生を送ることができるのではないでしょうか。
ここで、日本人の歯の〃平均寿命″をみてみましょう。
歯科口腔(こうくう)外科医の一人である私などは、その数値に悟然とさせられます。
厚生労働省の提唱する指針に「八○二○運動」があり、これは八○歳になっても自分の歯を二○本残そうというものです。
けれども、現状をみると私は絶望的な気分にさせられます。
わが国の六○歳代における平均残存歯数(天然歯数)は、一六本弱、七○歳代になると約八本、八○歳代になると、およそ四本にまで激減してしまいます(一九九三年厚生省歯科疾患実態調査より)。
これでは「世界一の長寿国」といわれても、何だか釈然としません。
「寿命だけは世界一かもしれないが、こと歯に関すると〃日本人の平均寿命〃は短いのでは?」と考え込んでしまいます。
口のなか(口腔)というのは、のちほど触れることになりますが、たいへん不潔な場所です。
まめに手入れをしていないと、たちまちのうちに細菌の巣窟になってしまい、あっという間に虫歯や歯周病になってしまいます。
ということは、日本人は十分に口腔ケア(歯だけでなく口腔粘膜を含めて、口のなか全体の手入れをいいます)が行えていないということになりそうです。
年をとること(老化・加齢・高齢化などさまざまな言い方があります)は誰にでも起こり、それは防ぎょうがありません。
けれども肉体や精神の衰えは、あなた自身の努力によって、少しでも先延ばしにすることができるのです。
近年「アンチ・エイジング」ということばが一般化し、皆さんも新聞やテレビ・ラジオなどで目や耳にされたことがあると思います。
「エイジング」は、直訳すると「老齢・加齢」などという日本語があてられますが、最近では「老年学」という意味で用いられています。
詳しくいうと、「人間の老いを、生物学・医学・心理学・行動科学・社会科学および社会福祉や社会計画などあらゆる面から総合的に研究する学問」のことをいいます。
アンチ・エイジングとは、老化に対抗するという意味ですから、「抗加齢学」という訳語があてられるでしょう。
つまり、老化に対して積極的に立ち向かうという姿勢をもつことが、人間にとっては重要である、というのがアンチ・エイジングの立場といえそうです。
ちろん、臓器の老化などのなかには、自分の努力だけではどうにもならないものもあります。
しかし、血管をしなやかに保つことや、記憶力を保持したり、脊椎(せきつい)の衰えを防いだり、骨を丈夫に保つことなどは、日ごろからの食事や運動の習慣、知的好奇心をもち続けることで、老化の進行を先延ばしにすることが可能です。
その一つが歯の健康を保つことなのです。
これはまさしく、自分自身でできる抗加齢対策の一つです(ただ、アンチ・エイジングということばには、少し一眉をいからせた感じがあり、私としてはもっと肩から力を抜いて、自然体で老いとつきあうというニュアンスをこめ、「ナイス・エイジング老後を幸せに生きる」という用語を使いたいと思います)。
現在、私は世界最大のアンチ・エイジング組織であるアメリカ抗加齢医学会(A4M)の会員であり、また昨年女性のための抗加齢医学研究会を同志の医師らと共に立ち上げ、理事として啓蒙活動をしております。
人生の楽しみとは何でしょうか。
それは、人によって異なります。
何よりも読書が一番という人もいれば、旅行、仲間とのおしゃべり、スポーツをすること、あるいはドライブ、庭木の手入れ、お酒を飲むことなど人さまざまです。
しかし、その前提となるのは、やはり「しっかりと食べられること」でしょう。
食事と睡眠は人間の健康維持に欠かすことができません。
そのためにも、きちんと岨噌(そしゃく)して食べ物を食べられるよう、歯の健康は大切にしたいものです。
「補綴(ほてつ)」ということばは、一般にはあまりなじみのないものでしょう。
広辞苑では「破れた所などを、おぎないつづること」とありますが、歯科の領域では、「ブリッジをかぶせる、義歯を入れる」という意味で使用されることばです。
従来は、部分入れ歯・総入れ歯・ブリッジが主体だった歯科補綴治療ですが、ここに新たに「インプラント」という治療法が加わってきました。
インプラントは、これまでの入れ歯の概念を覆す治療システムで、「第二一の歯」、「最も天然に近い歯」といわれています。
入れ歯だと食べ物によっては噛み砕くことが困難であったり、岨畷しにくかったり、あるいはぐらついたり、苦痛を感じるというのが、いままでの入れ歯に対する患者さんの不満でした。
これに対しインプラントの場合は、あたかも自分自身の歯のように自由自在に食べ物を岨畷することができます。
どんなに固いものでも、噛みにくいものでも、以前のように食べることができます。
また、外れそうになるという心配も無用です。
QOL(クオリティ・オブ・ライフⅡ生活の質)を高める治療、それがインプラントです。
健やかに生活するための基本となる食事を存分に楽しみ、味わうことができれば、老化に対して積極的に立ち向かう気力が湧いてきます。
皆さんもよくご存知のNの『吾輩は猫である」、この物語の初めのほうに、苦しやみK先生の教え子であるM君が、前歯が欠けたまま、年始の挨拶で先生の家に現れる描写があります。
「君、歯をどうかしたかね」とびっくりした先生が尋ねると、椎茸を食べようとして、椎茸の傘を噛み切ろうとしたらぽろりと前歯が一本欠けてしまったという寒月君の答え。
「椎茸で前歯がかけるなんざ、何だか爺々臭いね。
俳句にはなるかも知れないが、恋にはならん様だな」、先生は呆れた様子でこう受け答えをします。
「たかが椎茸で前歯が折れる?」とお疑いになる方もいらっしゃるかもしれません。
Sもそう思ったに相違ありません。
苦沙蝿先生よりも若い寒月君の歯が欠けたことを、だからこそ「爺々臭い」と表現したのだと思います。
しかし笑い事ではありません。
長年、歯科臨床にかかわってきた私のところにも、似たような患者さんが大勢みえるのです。
この文章を読んだとき、私などは職業柄、つい『吾輩は猫である」を一つの「症例(ケーススタディ)」としてみてしまいました。
K君はずいぶん歯が弱っているようだが、いったい何歳なのだろうか。
辞書で調べてみると、激石が生まれたのは一八六七年。
「猫」を発表したのが一九○五年。
激石自身、自分をK先生のモデルにしたというから、先生の年齢は三七歳前後。
とするなら、弟子である若い寒月君はまだ二○代だったに相違ない。
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